最終企業

 ある時代、企業は他の企業と戦うために次々と買収を繰り返して大きくなり、遂に世界には2つの大きな会社だけが存在するようになった。2つの会社は激しく戦い、お互いに自分の客を囲い込み相手の客を引き抜こうとしたので、自社のある商品を買う人は自社の他のサービスも安くなるようにして、グループ内で様々な提携サービスを作った。やがて家からスマホ、電気、水道までひとつの会社で済ませるのが最も安くなり、人生のほぼ全てが同じ会社の提携サービスで事足りるようになった。それは人生パックと呼ばれた。
 同じ会社の人生パックを買っている人同士の間では、電話が無料だったり、同じ独占配信のコンテンツについて話ができるので、人々は同じ会社の人生パックを買う人とのみ付き合うようになり、違う会社の人生パックを買っている人を避けるようになった。会社が違えば聴く音楽も見る映画も全く異なるので、次第に両者の間では流行や価値観や言葉遣いが異なるようになった。同じ人生パックを買うひとと結婚し、子供を産む。数世代も経ないうちに、言葉遣いの違いは言語の違いになり、流行の違いは文化の違いになった。それは人類史上初めての、企業によって統合された民族の誕生だった。そうなってくると、もう他の会社に乗り換えようとする人はほとんど居なくなったので、会社どうしの争いも無くなり、平和になった。やがて2つの会社は2つの国を作って閉じこもり、互いに交流することなく2つの文明圏を作った。2つの国の間に広がる中立地帯にあった交通インフラは管理されず荒廃し、自然に帰っていった。そして国の外にも人類がいることを示す記録は忘れられた。やがて、それらがもとは会社であったことを忘れて、会社の中で会社を作る人が現れた。お金を再発明する人も現れた。経済が生まれ、人々は再び資本主義の時代を生きるようになる。様々な会社が乱立し、そして再び2つの大きな会社が残りすべての会社を買収して熾烈な戦いを繰り広げるようになった。同じように客を囲い込み、文化や言語が寸断され、2つの国となった。これで地球は4つに分割された。さらに10億年ほどが過ぎ、人類の文明圏は2の11乗にまで分裂した。それは卵割と呼ばれた。次第に文明同士が接着し、血管を作り、組織を作り、臓器を組み上げる。そうして一人の巨人が生まれ、巨人たちが集まり、お金を再発明し、会社を作ったりして資本主義を始めるようになった。

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