聞こえ度を使ったehtaplenのシンプルな動詞接辞の設計法の解説

まえがき

 ehtaplenの動詞接辞の設計は、聞こえ度が減少する順に並べることで、緩衝母音のような規則を増やすことなく、読みやすさとシンプルさを両立しようとしました。接辞を圧縮しようとすると自然にたどり着くものでたいしたアイデアではないかもしれませんが、このアイデアは他の言語にも有用だと思われ、また自言語の気に入っている箇所でもあるので、この項で解説したいと思います。もし気に入ったらぜひあなたの言語にも採用してください。

解説

 ehtaplenの動詞はすべてsで終わります。聞こえ度の低い無声摩擦音sで動詞が終わることが接辞を前に挟むのに重要になってきます。

相・時制の接辞

動詞の相\時制活用表

|相\時制|過去(-ns)|現在(-s)|未来(-ls)|
|—|—|—|—|
|無(-s)|-ns|-s|-ls|
|完了相(-ks)|-nks|-ks|-ls|
|継続相(-ps)|-nps|-ps|-lps|

 ehtaplenの動詞の相\時制の接辞の一覧表を上の表に示しました。上の表では、時間を表す接辞l,nと相を表す接辞k,pがsの前に挟まることで相と時制が表現されています。
 ここで重要なことは、音節末において、聞こえ度が減少する向きの子音連続は発音しやすいが、逆は難しいということです。例えば、ankよりaknの方が発音が難しく、olpよりoplの方が発音が難しいです。音節頭ではこの関係は逆転し、nkaよりknaの方が発音しやすく、lpaよりplaの方が発音しやすいです。一般に、発音しやすい音節というものは、音節の中心ほど聞こえ度が高くなり、音節の周辺に行くほど聞こえ度が低くなるというのが言語学の経験的な見解です。音素を聞こえ度順の高いものから低いものに並べると

a > e,o > i,u,y,w > r,l > m,n > v,z > f,s> b,d,g > p,t,k

となります。全体の傾向として無声音より有声音の方が、有声音の中でも鼻音(m,n)や流音(r,l)の方が、子音より母音の方が、母音の中でも開口度が高いほうが聞こえ度が高くなることが分かります。
 この音節中心に近いほど聞こえ度が高くなる規則を考えれば、

という方針が見えてきます。これら方針により、ehtaplenでは時制の接辞に(n,l)を、相の接辞に(k,p)を採用し、時制→相の順で並べ、動詞末にsが来るという構造が決まりました。(k,pよりsの方が聞こえ度が高いので、(k,p)→sの向きの子音連続は難しそうに見えますが、k,pが破裂音で息もれを伴うのでsが例外的につなぎやすくなっています、多分(詳しいことはよくわからない))

-(n,l)-(k,p)-s

という動詞の構造ができたところで、そこに新しい接辞を追加しようとすると、y,wを入れると動詞本体のi,uと干渉しそうだし、b,d,gを入れるとp,kと接続が難しくなるので、やむなくもう一つ音節を追加するしかないと判断しました。そこで、動詞末のsをtに置き換えて、

-(n,l)-(k,p)-t-(a,i,u…)-s

という構造をとることにしました。同じ無声破裂音でも開口度?が低いのか(k,p)→tの子音連続が発音しやすいことが選んだ理由です。

過去完了 過去 過去進行 現在完了 現在 現在進行 未来完了 未来 未来進行
無法 -nks -ns -nps -ks -s -p -lk -l -lp
可能(-tos) -nktos -ntos -nptos -ktos -tos -ptos -lktos -ltos -lptos
希求(-tis) -nktis -ntis -nptis -ktis -tis -ptis -lktis -ltis -lptis
命令(-tes) -nktes -ntes -nptes -ktes -tes -ptes -lktes -ltes -lptes
仮定(-tas) -nktas -ntas -nptas -ktas -tas -ptas -lktas -ltas -lptas
推測(-tus) -nktus -ntus -nptus -ktus -tus -ptus -lktus -ltus -lptus
必要、義務(-tles) -nktles -ntles -nptles -ktles -tles -ptles -lktles -ltles -lptles
推奨、提案(-tlas) -nktlas -ntlas -nptlas -ktlas -tlas -ptlas -lktlas -ltlas -lptlas

上に法を表す動詞接尾辞を入れた動詞の活用表を示しました。全部無理なく発音できそうです。これで例えば

chilptlas on「あなたは将来歩いているのが良いでしょう」
chis:歩く, on:あなた

という未来進行+提案の内容を緩衝母音なしの接辞によってわずか3音節で(そんなに)無理なく発音できるようになりました。

並列

 前の記事で紹介したとおり、ehtaplenはsnn文法とよばれる規則により、動詞に取る項の数を明示し、動詞-名詞の項の対応関係を作ることで、左結合風の括弧のない構文厳密な設計を作りました。しかしその副作用として、同格の項を複数取れないという問題が発生しました。例えば、「私は魚と肉を食べる」と言おうとして

*mes en niwon bluton
mes:食べる, en:私, niwon:魚, bluton:肉

と言っても、mesが項を2つとると文章が終了するので、blutonが動詞と接続されません。同様に「私は歩き、走った」と言おうとして

*chins lattins en
chins:歩いた, lattins:走った, en:私

といっても、文の先頭にしか動詞は現れないので、二つ目の動詞lattisは動詞を形容する動詞、すなわち「Aが走るように」という意味の副詞と解釈されます(これは前回の記事の範囲外)
この問題を回避するために、並列表現用の接尾辞を追加する必要が生まれました。いま

動詞 -(l,n)-(k,p)-t-(a,i,u…)-s
名詞 -n

という構造がある品詞で、なるべく例外さけて接辞を追加するには(s,n)からの子音連続が発音しやすい子音を接尾辞に選ぶ必要があります。最終的にそれはtとなり、単語の末にtが来ると項の消費を保留するという文法を一つ追加するだけでsnn構造を保つことができました。
したがって例文は正常な文

mes en niwont bluton「私は魚と肉を食べる」
mes:食べる, en:私, niwon:魚, bluton:肉

chinst lattins en「私は歩き、走る」
chis:歩く, lattis:走る, en:私

となり、従来のsnn構造

-s -n -n

は並列表現を考えると

-st -st….-s -nt -nt…-n -nt -nt…-n

に変わりました。

結論

 膠着語的に接尾辞を追加して活用や曲用を作るとき、緩衝母音などを入れたくなければ、聞こえ度が低くなっていくように接尾辞を並べ、文法機能が同カテゴリなど交代しやすい接尾辞には同程度の聞こえ度のものを採用すると良い。接頭辞の場合は聞こえ度が上がっていくようにすればよい

付録

shapenptis en sheeman「私は布団を吸っていたかった」
shapes:吸う, en:私, sheeman:布団
-n-:過去, -p-:進行, -ti-:希求

ontus in chiwan「それはねこだったと思う」
os:である, in:それ, chiwan:ねこ
-n-:過去,-tu-:推測

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